【節制】レポ「ウェイト版」と「トート・タロット」と「マルセイユ版」の絵を比較しながら学ぶカードの意味15回目2024/9/18

1回目「愚者」2回目「魔術師」3回目「女司祭」4回目「女帝」5回目「皇帝」6回目「教皇/司祭」7回目「恋人たち」8回目「戦車」9回目「力」10回目「隠者」11回目「運命の車輪」12回目「正義」13回目「吊るされた男」14回目「死」

15回目は「節制」、トート・タロットは「Art」

ヨーロッパの四つの徳、人として生きるのに大事なことのひとつ、節制。文字が読めない人にもわかるように絵で示されたのが、水とワインを混ぜ合わせる姿。

酔うためのワインに酔いを覚ます水を混ぜるとは?飲んでいいけどほどほどに!酔っ払いへの注意喚起だけじゃなく、人生全般でも過度に走るのはよくないよって教訓のようです。人生にはバランスが必要。

マルセイユ版はそのまんまのシンプルな絵ですが、謎が一つ。なぜ翼があるのか?

四つの徳のうち、これまで出てきた正義、剛毅(力)に描かれる女性に羽はないし、節制ももともとはなかったんですね。

タロット大全―歴史から図像まで』図105
ピアモント・モルガン-ベルガモ・パックの「節制」

いつしか翼がついていた、その経緯を説明していただきました。『リーディング・ザ・タロット』p.241〜でも読めます。

リーディング・ザ・タロット大アルカナの実践とマルセイユ・タロットのイコノグラフィー-』

意味なくついちゃった翼でありますが、ウェイトはあえて翼を残したようです。生命の木をからめると、このカードに合うから。

生命の木で「節制」のパス25は占星術の射手座に対応。射手座といえば弓と矢で、放たれ飛んでいく矢と、翼を持って飛ぶ天使に、上昇のイメージを重ねている。

ただですね、ウェイト版「節制」の天使は飛んでないんですよね。道の先に輝く光も描かれ、もっと上のパスに向かって飛びたつのかと思わせつつ、足をつけている。

「節制」のパス25は、マルセイユ版と同じく、ほどほどにしておけ!が重要になるから、あえて飛ばさずにバランスをとっているのだとか。

生命の木

これは生命の木講座でくわしくお話ありますが、パス25を9→6と上がっていくのは、意識せずにやっていることから気づいて目覚めていくプロセス。ここでの罠は、目覚めた気になること。自分だけ上がったつもりで人を責めたり、信じることを布教し始めたり。

極端になっちゃだめ。ほどほどに、なのにね。

生命の木―ゴールデン・ドーンの伝統の中のカバラ

著者グリアさんはp.259.でこのパスの象徴として旧約聖書のヤコブの幻視をとりあげてます。 ”天から地上へ延びる梯子を天使たちが上がったり下りたりする光景を見た” 

Jacob’s Dream by William Blake (c. 1805, British Museum, London)

Jacob’s Ladderヤコブの梯子、このパス25のヘブライ文字も「支柱」「はしご」。上がるばかりじゃなく上下どっちにも行くっていうのが大事なんですかね。ウェイト版の天使が翼を持ちながら片足は地につけているのは絶妙。

トート・タロットでは翼がなくなりました。何かを混ぜてはいるけど、液体の移し替えじゃない。タイトルも「アート」になって異質なカード。

技とも術とも訳されるArtで描かれるのは、錬金術の作業だそうです。その昔、非金属から金を作り出そうとした術。

ジョゼフ・ライト賢者の石を探す錬金術師1771年

今の科学ではありえないものをなぜ持ってきたのか?そこにはユングによる錬金術の再解釈がありました。

ユングは錬金術の図版をみて、金の製造過程は心の成長段階を表すものだと考えた。自分の心理学の心の成長モデルにぴたりと当てはまったから。

前回の「死」は生まれ変わるとこでした。錬金術の黒化=腐敗を経過して生まれ変わる。絶望して腐っても、真っ黒に焼き焦げても生き直せるというのは、ユングのいうシャドウに向き合って再生するとこにもみえる。

今回の「節制」だと、王と女王の結婚=対立項を結びつける図像が、ユングのいう男性性・女性性の統合に重ねられる。外から期待される男らしさ、女らしさを生きてると、男性なら女性性、女性なら男性性を抑圧する。内なる女性性、内なる男性性を統合し、最終的に男女両性具有になるのが完成形=個性化。

ハインリヒ・ノリウス作『Theoria Philosophiae Hermeticae』(1617年)
のRebis

男女二人が一体化したレビス(二重または二重の物質を意味するとか)、トート・タロットの顔が二つある人物はこれに似せてるのかしらん。

「恋人たち」のカードでは剣で切り離された男女が結婚していました。ついに混ざり合い一体となった姿が「アート(節制)」かぁ。トート・タロットも、異質なものを混ぜ合わせるのはマルセイユ版、ウェイト版と共通でした。

さて、統合された人物の額にある三日月は?クロウリーは射手座の神話から月の女神&狩猟の女神アルテミスをもってきた。

ギリシャ神話のアルテミス(ローマ神話のディアナ)を描くときは、弓を持ち、頭に三日月がお約束。

狩りをするディアナ, フォンテーヌブロー派 1550年代

生命の木の「節制」のパスの下側のセフィラー9は「月」と関連、「節制」のパスの真上の「女司祭」のパスも「月」と関連、月を通してトートも上下の行き来を意識してるのか?

また乳房がいっぱいついてるのは、アルテミスの中でもエフェソスのアルテミス(=豊穣を表す)にしたからだそうで。

Artemis of Ephesus. 1st century CE Roman copy of the cult statue of the Temple of Ephesus. Statue in the Museum of Efes (Turkey).

抑圧してきたもの、相反するものが統合されたら、人生を豊かに生きられる?!

次の悪魔はクロウリーの本領発揮か、またまたおもしろそうですよ。

以前の講座の「節制」レポ

「ウェイト版」と「トート・タロット」と「マルセイユ版」の絵を比較しながら学ぶカードの意味

講師:伊泉龍一先生

Zoom開催スケジュール

次回10/2「悪魔」、以降10/16、11/6、11/20、12/4、12/18

各回:20時〜21時(1時間)

★リアルタイムでなくてもアーカイブでもご受講いただけます

受講料1回¥3,300

詳細・お申し込みはこちらから
https://thelema-s.com/online240221.html

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