1回目「愚者」、2回目「魔術師」、3回目「女司祭」、4回目「女帝」、5回目「皇帝」、6回目「教皇/司祭」、7回目「恋人たち」、8回目「戦車」、9回目「力」
10回目は「隠者」

マルセイユ版「隠者」はランタンを持って彷徨っている。これはヨーロッパの人々にある隠者の概念だそうです。暗い夜道を照らすランタンは真理=光を探す象徴、俗世間から離れた「真理の探究者」。
世を捨てて真理を探究する、とまではいかなくても、みんなが言ってることに何か違和感を感じて、自分なりの答えを探したくなるときはあるんじゃないですかね。みんなと一緒でなくて、自分らしい生き方を探してみよう!自分の道を探し求めるのが「隠者」のテーマ。

さまよい歩いているマルセイユと違って、ウェイト版「隠者」は雪山?の頂に立っている。
生命の木で「隠者」は6-4のパスで、4=木星=可能性に向かっているパスだから、自分の道を見つける可能性に開かれたところのはずなのだけど、絵は可能性が輝いてるというより暗く孤独な感じ。
その昔、マルセイユより古いタロットでは、「隠者」でなく「老人」「時」とよばれていたようです。時間を表す擬人像ゆえ、ランタンでなく砂時計をもっていた。本『タロット大全―歴史から図像まで』p.494.~老人をごらんください。

流れ落ちる砂は、はかなく過ぎゆく時間を象徴。残りは少ないよ、あっという間に老いていくよという教訓としたら、暗く憂鬱になってしまうけれど、失われた時を思うことが逆に可能性を広げるとしたら?
セフィラー4には記憶という意味もある。過去をたどり、自分がこれまで避けてきたことを意識した時、そうじゃないほうを選択する可能性が見えてくる。今まで一度もなったことない私になるには、今までと同じパターンの繰り返しではあかんということですか。
自分が一度たりともやったことがないとこに可能性がある。
トート・タロットのテキストでは、生命の木のヘブライ文字対応から可能性の話が始まりました。「隠者」にはヨッド:閉じた手、拳。握られてるから見えないけど、ポテンシャルが秘められてる。

そして可能性の象徴として精子を描いてます。これから卵子と結合し、人間になる可能性を潜在的に秘めている、ということで(性的なものをわざわざ入れるのはキリスト教の隠者が禁欲したのに反抗して?)

本『生命の木―ゴールデン・ドーンの伝統の中のカバラ』でグリアさんも精子の可能性を書いてますが、種子もあげてました。
種は土の中で育ちます。「隠者」のパスは占星術だと土のサインの乙女座に対応するからこれもぴったり。クロウリーも乙女座:大地に言及してます。肥沃な大地を表すのに?背景を小麦で埋めている。
小麦といえば穀物の女神デメテル。ウェイト版では「女帝」に重ねられてました。麦穂が描かれてますよね。
クロウリーは「隠者」にこの女神の物語を重ねたいみたいです。
娘ペルセフォネが突然冥王ハデスに誘拐され、穀物の女神デメテルは激怒、植物を枯らしてしまう。最高神ゼウスも根負けして、娘を返そうとする。交渉のため冥界に遣わされたのが神々の伝令ヘルメス。
下の絵だと、ヘルメスがペルセフォネを地上の母デメテルに引き渡そうとしてる?

クロウリーは、ユング派の人がやるように連想でどんどんつなげていって、ちょうど「隠者」のパス「乙女座」のルーラー「水星」の神ヘルメスとも結びつけたようです。
デメテル&ペルセフォネ&ハデスの神話は、以前伊泉先生に教えていただいてた神話占星術シリーズで何度も登場してました。
- 内なる「女性性」の元型としての小惑星―女神たちの伝承と小惑星の「ケレス」回
- 天王星・海王星・冥王星を深く学ぶ―神話の「元型」とトランスサタニアンの意味の「冥王星」回
- 神話で読み解く占星術の12星座の物語「蟹座」「乙女座」「蠍座」回
どんだけ出てくんの!?てくらいユング派好みの神話なんでしょう。蠍座や冥王星では「地下世界(心の奥深く)へ入っていく旅をする→古い自分が死ぬ→新しい自分に生まれ変わる」のを強調(ケレスや蟹座では母子関係や子離れについて)
「隠者」のパスの自分自身の可能性を探るため、自分の内面世界へ入れという意味でクロウリーがこの神話を使ってるなら、ユング派の著者たちによるこの本も読まれるとご参考になるかも。

タロットに話を戻して、トート・タロットは水星ヘルメスの象徴がたくさん描かれてるのが目立ちます。
オルフェウスの卵、ヘルメスが飼い慣らしたケルベロス、「隠者」の頭部さえヘルメス由来という説もあるようです。トートの隠者、なんか変な頭ですよね、嘴があるような。鳥のトキなんですって。

トキは古代エジプトの書記と学芸の神トートの化身とされていたとか。エジプトのトートとギリシャのヘルメスはのちにいっしょくたになったからそういうのもあるのかないのか。
水星は虹色というのも大変興味を惹かれました。属性が多彩だから、赤とか青とか単色に決まらない。コロコロ姿を変える、これこそが可能性に開かれることでは?!
今までしたことない何かをすれば、これまで思ってた自分とは違う面が見つかったりしますね。新しいことに合わせるにはそれまでの自分だけでは対応できないから。慣れない場に合わせて演技?してるうちに、その所作が板についてくるのもあるかな。
スタイルを固定しないで水星のように変わり続け、いつも違う顔を見せていくのも楽しいじゃないですか。
関係ないけどカラーの世界では何色にでも変われるクリア/透明/白/が可能性の塊です。仕事では堅めのブルーな私、違う人と会うときはピンクの私とか、変化できるのがいいわけですよ
以前の生命の木講座の「隠者」もつけておきます。
次回は7/17「運命の車輪」です。今度はちょっとむずかしいのか?!またお待ちしてますね

講師:伊泉龍一先生
Zoom開催スケジュール
次回7/17「運命の車輪」、以降8/7、8/21、9/4、9/18、10/2、10/16、11/6、11/20、12/4、12/18
各回:20時〜21時(1時間)
★リアルタイムでなくてもアーカイブでもご受講いただけます
受講料1回¥3,300
詳細・お申し込みはこちらから
https://thelema-s.com/online240221.html
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